
プライベート投資がここ近年急激な成長をしています。
プライベート投資とは、上場株式や社債、投資信託などといったいわゆる「伝統的資産」ではなく、プライベートエクイティやヘッジファンドなどの「オルタナティブ資産」に投資をする戦略のことを言います。
プライベート投資についての主なメリットとデメリットを紹介します。
機関投資家アンケート
これまで著しい成長を遂げてきたプライベート投資の魅力は何でしょうか。
プレキン社のグローバル機関投資家アンケートにおける理由をみてみると、各戦略によって採用理由は異なるものの、多くの戦略で上位に挙げられているのは、「分散効果(および他資産との低相関)」、「高いリターン」、「安定したインカム収入」となっています。
1.分散効果(および他資産との低相関)
すべての戦略において、「分散効果」が採用理由の最上位に挙げられています。
プライベート投資は、戦略ごとに、対象資産クラスが異なるため、リスク・リターンにばらつきが発生し、広く分散投資を行うことで、分散効果が最大限に期待できるのです。
例えば、不動産とインフラストラクチャーは、いずれも実物資産系のプライベート投資ですが、それぞれの対象資産クラスが異なり、主要リスクも異なるため、戦略の分散効果が期待できます。
同様に、プライベートエクイティとプライベートデットについても、未上場企業に投資することは共通していても、その株式に投資をするのか、債券に投資をするのかで当然リスク・リターン特性が大きく異なるのです。
実際、国内年金基金等の運用担当者に、「なぜプライベート投資を行っているのか」を問うと、「分散効果が期待できるから」という意見が多く、「ポートフォリオ全体のリターンを安定化させるために分散効果の期待できるプライベート投資を採用してきたが、複数のプライベート投資戦略を採用することにより、さらなる分散効果の享受を目指している」という話もあります。
過去のパフォーマンスの状況については、2008年のグローバル金融危機、2011年の欧州ソブリン危機、2015年の原油価格危機における状況をみてみると、まず2011年および2015年について、株式市場のパフォーマンスが伸び悩んだのに対し、プライベート投資戦略は株式市場を上回るプラスのパフォーマンスを上げており、株式に対する分散効果が発揮されたことが確認できています。
一方、2008年のグローバル金融危機においては、株式のみならずすべてのプライベート投資戦略がマイナスとなっており、マクロ環境が急速に悪化してあらゆるリスク性資産が売り込まれるような環境となった場合には、プライベート投資戦略においてもその影響から逃れることは難しいという結果となりました。
しかし、そのマイナス幅は株式市場よりも相対的に小さかったこともあり、2008年以降にプライベート投資が再評価され、運用資産の拡大につながったのです。
2.高いリターン
プライベートエクイティ、インフラストラクチャー、プライベートデット、ヘッジファンドにおいて、「高いリターン」が採用理由の上位に挙げられています。
一般的に、プライベート投資は上場株式と比較すると価格変動リスクは低くなります。その理由は、戦略ごとに様々ではありますが、以下のような構造上の点が背景となっていると考えられます。
- プライベート投資全般
低流動性。非上場資産を投資対象とする場合、伝統的運用のように投資対象の市場の変動に評価額が日々さらされることがない - インフラストラクチャー
規制や長期契約によって長期安定的なキャッシュフローの獲得を期待できる資産への投資を中心に行われている - プライベートデット
返済順位の高いデットへの投資であるため、プライ ベートエクイティよりも低リスクとなるが、クレジットリスクをとることで伝統的運用における債券よりも高いリターンが期待できる - ヘッジファンド
ショートポジションによって市場下落の影響を低減させる。
3.安定したインカム収入
不動産、インフラストラクチャー、プライベートデットにおいては、「安定したインカム収入」が採用理由の上位に挙げられています。
不動産とインフラストラクチャーについて、安定したインカム収入を上げ ることが運用目標となっており、長期契約に基づく安定稼働資産への投資が中心となるため、グローバル金融危機のような状況でも、キャピタルゲインには影響が出るものの、安定的にインカムは確保されるのが一般的です。
プライベートデット(ダイレクト・レンディング)については、プライベート・エクイティと比較すると、デットへの投資であることから返済順位が高く、また、シニアデットへの投資であることから担保による保全も期待できるため、デフォルト時の回収率はデット関連商品の中でも相対的に高いです。
このような点から、長期投資を前提とし、短期的な価格変動や低流動性が許容できる投資家にとっては、不動産、インフラストラクチャー、プライベートデットといった戦略は、安定したインカム収入が期待できる戦略として魅力があるといえます。
プライベート投資の留意すべきリスクは
ここまで、プライベート投資の魅力について述べてきましたが、いくつか留意点についても述べておきます。
ポイントとしては、「低流動性資産」、「プライベート市場」、「長期投資」の3点が挙げられます。
投資家は、これらの内容を十分に理解した上で、許容できるリスクであるのかを十分に検討した上で投資を実行することが重要となります。
①低流動性資産
多くの場合、途中での解約を行うことは原則できません。持分の二次流通市場は存在するものの、純資産価格に対してディスカウントを受け入れない限り売買が成立しないケースがあります。
解約可能な商品の場合もありますが、1か月ごとや四半期ごとの解約が一般的であり、それでも結果として資金化までに時間を要することがあります。
②プライベート市場
資産評価額は、公開市場で決定されるのではないということです。
例えば、プライベートエクイティの場合には、会社もしくは会計士が算出する金額をベースに算出されるため、実際の取引価格とは乖離する可能性があります。
伝統的資産運用におけるポートフォリオ運用であれば、リアルタイムでのパフォーマンスの把握も十分可能ですが、プライベート市場に投資するプライベート投資の場合、公表されるまでに時間を要するため、実態の把握までにタイムラグが発生する点にも留意が必要です。
③長期投資
プライベート投資は、長期間かけてのポートフォリオ構築とパフォーマンスの実現を目指すスタイルです。
そのため、長期間にわたり資金が固定化されるという面もありますが、パフォーマンスの面でみても、投資開始からの数年間はJカーブ効果(プラスのパフォーマンスを享受できない期間)が発生することから、長期間で評価しなければなりません。
つまり、短期間での成果を求めるのではなく、長期間での成果を期待しなければならないのです。