
多くの個人はおそらく、外貨預金や外債を購入するにしても一時的な資産運用として意識されていると思いますが、これからは、常に家計資産の一部として外貨建て資産を恒常的に持っていていいと考えられます。
インフレに対応できる
手持ちの金融資産が、すべて円建て商品で占められているとします。この場合、この金融資産の実質的な価値は経済情勢の変化に伴って、どのように変化していくでしょうか。
現在1ドル=100円台の為替相場が、円安に動き1ドル=200円になればどうなるでしょうか。
経済原則の教えるところでは、円安はほとんど例外なく日本の物価を引き上げます。100円から200円になれば、相当のインフレが起きるはずです。
何しろ国内需要のほとんど95%以上を輸入に頼っている原油、天然ガスなどの海外への支払いは2倍になります。食料や多くの鉱物資源などもそうです。
これらのエネルギー、資源への支払い金額が上がるということは、円基準で見ると輸入物価が上がるということ。
当然、日本で生産・販売されるほとんどの製品・サービス価格も上がります。
円だけで資産を持っていれば、その実質的な価値がどんどん下落するのです。これが輸入インフレによる通貨価値の目減りです。
もちろん、国内の円建て金融資産の運用でインフレ率以上での資産運用ができれば問題ないのですが、これは非常に難しいです。
この場合、 外貨建て資産を持つことが有効です。
円安ドル高になれば手持ちの円建て金融資産の価値は下落しますが、ドル建て金融資産の価値は上昇します。
つまり為替差益を手にできるのです。これによって、円安インフレに伴う資産価値の下落をある程度防ぐことができるというわけです。
1ドル=100円のときに100万円を米ドルに預けた後、1ドル=200円になった時点でそれを円に戻せば、200万円として返ってきます。
名目上の円建ての金額がドル高・円安によって膨れ上がるのです。
外貨資産は自分の資産を守る手段
これを一切考慮しなければ、 外貨建て商品の運用は単なるハイリスク・ハイリターン商品でしかありません。
しかし、為替相場が国内物価におよぼす影響を加味すれば、むしろ外貨建て商品はインフレリスクをヘッジするための商品だと考えたほうが正しいです。
これは、たとえば為替の先物オプション自体はハイリスク・ハイ リターン取引ですが、輸出入業者にとってはむしろヘッジ手段とし て意識されているのと似ています。
投資あるいは投機とヘッジとは、相反する概念ではなく、むしろ同じコインの裏表なのです。
以上のような視点に立てば、家計の資産運用でも、「外貨建て商品を持つか持たないか」ではなく、「外貨建て商品の保有比率を金融資産全体の10%にするのか、30%なのか50%なのか」という問題設定を行なうべきなのだと思います。
資産運用のプロは、常にこのような視点を持ちながら自らの資産を運用します。
自然災害はいつ起きるかわからない
あるいは、将来日本に首都圏を巻き込む大地震が発生するかもしれないと考えるなら、積極的に外貨建ての資産を保有することが有効です。
というのも、首都圏の機能が一時的にせよマヒするような大地震が起こったときには、日本円が売られて円安になる可能性が高いからです。
円安はただちに外貨高を意味しますが、外貨建て資産を持っていれば、為替差益が得られるのです。前述のように、100万円が200万円になって返ってくるのです。
実際、損害保険会社はその業務の性格に照らし、現在外貨建て資産(その多くは外債)を相当額持っています。 これは、単に外国の債券の利回りが高いことだけが理由ではありません。
それ以上に、万が一にも日本が大地震などの天変地異に襲われ、大量の保険金の支払いを余儀なくされたとき、外貨建て資産を売却して円に戻すと為替差益が得られるという計算が働いているのです。
米ドル建資産を保有し、米ドルベースで考える
外貨建て資産を一定額持つ、ということに対して「為替リスクがあるから不安」、「円ベースでしか考えていない」などという方が多いのが実情です。
たしかに為替の変動はさまざまな要素によって動くため予測が困難です。
しかし、世界の中での日本円の重要度は低下しており、圧倒的に米ドルで取引されているモノやサービスが多いです。
そのため、自分の資産を守るためにも、米ドル建の資産を一定額は持っておいた方が良いでしょう。