
株式か新株予約権か
スタートアップ投資の対象は株式(普通株)であるのが一般的ですが、投資先によってはストックオプション(新株予約権)を選択できる場合もあります。
2つの選択肢が用意されている場合、投資家がどちらの方法かを選択することになります。
そして、株式かストックオプションのどちらかで投資することになります。
ストックオプションとは
ストックオプション(新株予約権)とは、一定の条件を満たすことで定められた価格(権利行使価格)で株式を取得できる「権利」のことです。
あらかじめ定められた期間(権利行使期間)内にその権利を行使することで、投資先の株式を一定の価額(転換価額)で取得することができます。
投資家はこれを行使して取得した株式を売却することでキャピタルゲインを狙います。
たとえば、投資先の株価が権利行使価格を上回った場合は、ストックオプションの権利を行使して株式を取得し、売却すると利益を得ることができます。
反対に、株価が行使価格を下回った場合に権利行使価格で株式を取得すると、その差額は損失となります。この場合、権利を行使しないで放棄することで、損失額をストックオプションの取得額に限定することが可能です。
また、定められた権利行使期間を経過すると新株予約権は失効し、投資額が損失額として確定します。
IPOもM&Aもしないで企業が存続する場合は、こういった結末を迎えることがあります。投資先が解散する場合は解散日までに株式を交付し、株数と資産状況に応じて残余財産が分配されます。
ストックオプションは株ではない
しっかり押さえておきたい点として、ストックオプションは将来的に株式を取得できる権利であって、株式ではないということです。
権利を行使して株式を取得するまでは、株主総会に出席するなど経営に参加することができず、配当金を受け取ることもできません。
企業側からすると株式ではなくストックオプションを発行することで、株主から経営に直接介入されることなく、自由に経営することができるのがメリットでしょう。
また、行使価格が事後的に決まるスキームがあることにも留意が必要です。たとえば、普通株であれば投資時に1株当たりの価格が決まっています。30万円投資して、1株当たり1万円であれば、30株がもらえるわけです。
しかし、ストックオプションの場合は、スタートアップが次に資金調達をするときにストックオプションを株式に変えるときの転換価額や将来的に何株もらえるかが決まります。
つまり、30万円を投資しても、あとで1株当たりの価格が1万2,000円に決定すれば25株にしかならないし、8,000円に決まれば30株になるかもしれません。結果的に、意図していた株価よりも高い株価で投資することにもなりかねません。
ストックオプションにもメリット・デメリット
ストックオプションのスキームは普通株に比べて複雑なので、十分理解したうえで投資することをおすすめします。
どちらかというと、投資家よりはスタートアップ側の都合を優先するための方策といえます。
ただし、ストックオプションは一般的に権利に相当する金額部分を支払うことになるので、普通株式より安く購入することができ、権利を行使するか否かは投資家が自由に決めることができます。
株主としての権利は制限されますが、損失を抑えられるというメリットがあります。
他方、普通株式は株主に認められる権利をすべて行使することができ、株主総会で自身の意見を述べたり、投資先が清算されると残余財産の分配を請求することも認められます。
ただし、ストックオプションに比べると投資額は高くなり、最大で出資分の損失リスクを負うことになります。
株主総会に出席し経営に意見する株主のことを「もの言う株主」と表現することがありますが、エンジェル投資で出資した投資家が「もの言う株主」になるケースはあまりないようです。
もちろん、気になる点は問い合わせて構いませんが、経営者に聞く限り、「経営に対する意見やクレームは、ほとんどありません」という回答でした。
きちんと投資時点で意思疎通が図れていれば、投資家とスタートアップは長期的に伴走すると合意形成ができているので、重箱の隅を楊枝でほじるような意見やクレームをしないのが理由でしょう。
このように、株式とストックオプションにはそれぞれメリット・デメリットがあり、すべてのスタートアップがストックオプションに対応しているわけではありません。
ストックオプションを使いたいなら、対応するスタートアップの投資先を選ぶことになります。