
スタートアップに投資した個人投資家はエンジェル税制という制度を使うと税金が優遇されます。
仲介しているプラットフォーム業者のなかには、エンジェル税制が適用される企業を優先的に取り扱ったり、投資家が優遇措置を受けるための書類を揃えやすくしているところがあります。
今回は、エンジェル投資をする上で欠かせない優遇措置、「エンジェル税制」についてお伝えします。
エンジェル税制は買付時に大きな優遇
この制度は、投資時点と売却時点のいずれの時点でもメリットがあるのが特徴です。
スタートアップに投資した年には「優遇措置A」と「優遇措置B」のいずれかを選ぶことになり、控除額は次の通りです。
- 優遇措置A:(投資額ー2,000円)をその年の総所得金額から控除
※控除対象となる投資額の上限は、総所得金額×40%と800万円のいずれか低いほう - 優遇措置B:投資額全額をその年のほかの株式譲渡益から控除
※控除対象となる投資額の上限はなし
優遇措置A・Bの違いは創業(設立)からの年数で、Aの対象になるのは5年未満、Bの対象は10年未満の中小企業です。
要件詳細
加えて、次の表にある要件を満たす必要もあります。
ほかにも、「外部(特定の株主グループ以外)からの投資を6分の1以上取り入れている」、「大規模法人(資本金1億円超など)および当該大規模法人と特殊な関係(子会社など)にある法人の所有に属していない」、「未登録・未上場の株式会社で風俗営業などに該当する事業をおこなう会社でないこと」といった共通の要件があり、これらを満たさないといけません。
中小企業の定義
また、エンジェル税制の対象となる中小企業の定義は、「中小企業等経営強化法」の第2条第1号から第5号に定義される中小企業のことで、下の表のように業種により資本金の額、従業員数が異なります。
売却時においての優遇措置
スタートアップの株式を売却した年は、売却損失に対する優遇措置を受けることができます。
具体的には、その年のほかの株式譲渡益と通算(相殺)できるだけでなく、その年に通算(相殺しきれなかった損失は、翌年以降3年間にわたり、順次株式譲渡益と通算(相殺)できます。
なお、投資対象が上場しないまま破産・解散などをして株式の価値がなくなった場合も、同様に翌年以降3年間は損失の繰り越しをすることができ、投資した年にAまたはBの優遇措置を受けた場合は、その控除対象金額を株式の取得価額から差し引いて売却損失を算出します。
各案件がエンジェル税制の対象なのかどうかは、投資先スタートアップ企業で確かめることです。
そのうえで投資家は申し込み、そのあとはエンジェル税制の適格企業であることを示す確認書の交付を受け、所轄の税務署で確定申告をすることで税制優遇を受けることができます。
投資方法は3種類
エンジェル税制における株式を取得する方法(投資方法)については、以下の3つの方法があり、それぞれにおいてエンジェル税制の確認申請の方法が異なることにご注意ください。
直接スタートアップ企業へ投資する場合はもちろん対象になりますが、認定されたファンドや株式型クラウドファンディングへの投資でもエンジェル投資の適用を受けることができます。
私の知る限り、エンジェル税制が適用可能なファンドはごく一部ですが、申請のための書類や手続きを全て用意してくれるためエンジェル税制を使いたいという投資家の方はそちらの方が楽かもしれません。
エンジェル税制を積極活用すべし
通常、金融商品は売却時や利息などの利益が出た時点で税金が発生し、投資時点で優遇を受けられるものは基本的にありません。
エンジェル税制は、投資した段階で所得控除を受けることができるかなり投資家に優遇された制度です。
この税制を使い税制メリットを受けるためだけにエンジェル投資をしている投資家も多くいます。この税制は知っておいて損はありません。
また、政府のスタートアップ育成の方針により、このエンジェル税制の要件が緩和される予定であり、再投資の際の優遇措置も新設されました。
(関連記事:エンジェル投資が変わる!「スタートアップ育成5か年計画」と「税制大綱」)
税制優遇を受けることができるエンジェル税制は、スタートアップに対する個人の投資を促し、企業にとっても投資家を呼び込む格好の材料です。活用しない手はありません。