
未上場スタートアップに投資をすると、どのように投資家にリターンがもたらされるのでしょうか。
スタートアップが迎える未来には、4つのシナリオがあります。
事業が成功して「IPO」でイグジットするシナリオ、「M&A」でイグジットするシナリオ、事業継続が難しくなり「倒産」するシナリオ、そしてイグジットするでもなく会社を畳むでもない「存続」というシナリオです。
シナリオ①:IPO
VCなどから資金を調達しながらシード、アーリー、ミドルと順調に成長ステージを駆け上がり、証券取引所に新規上場を果たす、スタートアップが目指す最も理想的なイグジットがIPOです。
この時点で株主となった投資家は株式市場で自由に株式を売却できるようになり、株価が上昇していれば利益が得られます。
一般的に上場時は株価が大きく値上がりしているので、そのタイミングで株式を売却することで、創業者やVC、個人投資家は大きなリターンを得ることができます。
また、IPOで持ち株の一部を売却しても、すべてを手放す経営者はほぼいません。むしろ、企業側もセカンダリー市場で資金を調達できるようになれば、さらなる成長を目指すことができます。経営者にとって、IPOはさらなる高みを目指す手段というわけです。
ただし、IPOの実施自体にコストと時間がかかり、そこを目指すまでにも多額の資金を調達しないといけません。その際には有価証券報告書を始めとする膨大な書類の作成や内部管理体制の構築など、一連の負担は非常に煩雑です。
シナリオ②:M&A
事業拡大を図る企業に事業を売却するM&Aも、スタートアップにとってイグジ ットの手段です。この場合は、株式を譲渡することにより既存株主は利益を確定します。
IPOをするには厳しい要件を満たさないといけませんが、M&Aは相手企業が見つかり、条件さえ合えば、簡単かつスピーディに終わらせることができます。
買い手企業からすると、事業をいちから立ち上げ投資を繰り返し育てるには資金やノウハウが必要で、そうしたニーズにM&Aがマッチするのです。
現状の利益だけではなく将来の成長性も加味されるので、赤字決算であっても今後に期待できるなら成立するという点は、M&Aのメリットでしょう。
アメリカでは2012年にFacebook(現・Meta)がInstagramを買収しましたが、シナジーを求めてスタートアップの事業を吸収することは珍しくありません。
短期間で確実にイグジットできるので、初めからこれを目指すスタートアップもあります。
一方、M&Aを行うと経営権は買い手企業に移ります。創業者はいわゆるサラリーマン社長になるか、もしくは役員や社員として事業にかかわることもあれば、事業から手を引いて引退することもあります。
投資の面でのデメリットは、M&AによるイグジットはIPOに比べるとスケールが小さく、売却価格が低くなりやすいことです。
一般に利益が出ていない状態で売却すると企業価値は小さくなるので、既存投資家へのリターンも少なくなります。
時間やコストはかかるがIPOをするか、短期間でイグジットできてローリスクのM&Aのどちらを選ぶのか、創業者は両者のメリット・デメリットを比較のうえ、判断をくださなければいけません。
実際のイグジットとしてはIPOよりM&Aのほうが実現可能性は高いことはこれまでの事例を見ても明らかです。
なお、経営陣が自社株を既存株主から買い取るMBO(Management Buy Out)もM&Aのひとつですが、株式を売却する側からすると、これもイグジットのひとつに数えられます。
シナリオ③:倒産・解散・清算
事業がうまくいかなかったなどの理由で、会社自体がなくなることもあります。とりわけ、スタートアップはひとつの事業に集中しているので、それが失敗すると目も当てられない状況へ一気に陥ります。
結果、倒産や解散、清算の道を選んでもおかしくありません。
実際、過去にこうした事例は見られました。
解散・清算の手続きにより負債の返済が完了しても財産が残った場合は、株主が持ち分の割合に応じて残余財産の分配を請求できる「残余財産分配請求権」の権利申し立てにより、少しは資金が戻ってくる可能性はありますが、残余財産が残らない場合は出資分の損失が確定します。
シナリオ④:存続
シナリオの1〜3のどれにも当てはまらないのが、「存続」です。
IPOやM&Aといった明るい未来が訪れるわけではなく、かつ会社が消えることもなく低空飛行を続ける状態のことで、業界では「リビングデッド」と呼ばれています。
既存株主にとって存続は困った状況です。
資金だけではなく経営ノウハウも提供しているVCからしても、手塩にかけても成長しないのであればお手上げ状態なのかもしれません。個人の投資家からしても、どう付き合っていけばいいのか、残念ながら静観するしかないと思います。
既存の事業が伸びないのであれば新たなビジネスで浮上するか、長い時間をかけていつか花開くのを待ち続けるのか、とにかく手も足も出ないことは事実です。
保有株式を個人間で売買することは不可能ではありませんが、基本的には会社が譲渡制限を設けているので、承認が必要になります。
よって、一向にイグジットに向かわない場合は持ち続ける、もしくは会社の承認を得て譲渡するというのが選択肢になるでしょう。
とはいえ、成長性が期待できない会社の株式を誰がほしがるのかといった課題があることも忘れてはなりません。未上場スタートアップの株式は換金性に乏しく、こうしたケースでは不便が生じます。
IPOやM&Aで利益を狙うのが基本
スタートアップが迎えるであろう未来における4つの姿。
言わずもがな投資家が狙うのはIPOやM&Aなどに伴う株式の売却益です。
これらは、未上場スタートアップが目指すべきゴールであり、お互いの共通認識といって差し支えありません。