
エンジェル投資ではどういった分野のビジネスを手がけるスタートアップに資金が集まり、そのあともイグジットしやすいのでしょうか。
せっかく投資したのにイグジットまで時間がかかったり事業自体がとん挫したりすると、投資した分が損失になる可能性が高まります。
こういった事態を避けるためにも、注目しておきたいビジネスや分野のヒントを解説します。
1.アメリカのあと追いトレンド
ビジネスのトレンドは日本に比べるとアメリカが先行していて、そこから少し遅れて日本に上陸するといいます。
これを経営に応用したのが、海外で成功したビジネスモデルやサービスを日本で展開する「タイムマシン経営」です。
ソフトバンク創業者の孫正義氏が命名・実践していたとされ、創業間もなかったアメリカのYahoo!に投資をして、1996年に同社と合弁で日本にYahoo!株式会社を設立し上場させるなど、日米の時間差を利用した手法でソフトバンクを世界的な企業へ導きました。
そう考えると、アメリカを始め海外のトレンドを意識したビジネスモデルを手がけるスタートアップは注目に値するでしょう。
ただし、注意したいのは日本国内の法律やルールです。
たとえば、ライドシェアのサービスを展開するアメリカのUberは本国で成功し日本にも上陸しましたが、現在は専用のタクシー配車をアプリから依頼できるにとどまり、車を持っていて運転できる人と車に乗せてほしい人をマッチングする従来の サービスは始まっていません。
日本の道路運送法上、タクシーの運転には認可が必要で、これをなくして有償で人を運んではいけないからです。
2.国策関連
昔から株式市場では「国策に売りなし」という言葉があり、国が推進する分野には乗っておくという暗黙の了解があります。もっと視野を広げると世界的な方向性もあるでしょう。
たとえば、日本では少子高齢化が加速していて、すでに労働力不足がさまざまな産業で叫ばれています。
対策として外国人労働者の受け入れが始まっていますが、彼らの生活をサポートするようなサービスは今後、伸びていくかもしれません。
また、日本では2000年に介護保険制度が始まり、特別養護老人ホームや有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、デイサービスなど高齢者向けの事業がどんどん広がっています。
施設だけではなく、高齢者の見守り、シニア向けのモビリティの開発も進むなど、関連産業が盛り上がっていることは事実で、高齢化という社会課題を解決するビジネスが注目分野であることに間違いありません。
3.ヘルスケア・バイオ関連
高齢者ビジネスとつながりますが、社会が高齢化に向かうと健康寿命が重要になるので、ヘルスケア関連ビジネスは注目の分野です。
いまはスマートウォッチなどで歩数や血圧などが管理できますが、日々の健康管理、健康を維持するためのエクササイズ、医薬品や機器なども含まれます。コロナ禍におけるワクチン開発・供給で一躍有名になった米モデルナなど、バイオベンチャーも有望株です。
同社が設立されたのは2010年で、IPOを果たしたのは2018年。NASDAQ市場に上場して6億ドルを調達しています。このIPOは当時、バイオテクノロジー企業としては最大規模でした。
日本のバイオ関連スタートアップは小型で、世界規模で戦うことができる企業はあまり出ていませんが、注目されているのは事実です。
4.IT・AI・ロボット関連
働き方改革による労働時間の短縮、人手不足、労働の効率化など、日本社会が抱える課題はたくさんありますが、これらを解決に導くのがITやAI、ロボット産業だといわれています。
AIにより定型業務が減り、一般事務員や銀行員などの仕事はなくなるとの見方があります。これを活用した自動車の自動運転技術が確立されるとドライバー関連 の仕事だってなくなるかもしれません。
それにより失業者が増えるのか、ワークシェアリングで1人当たりの労働時間が短くなるのかわかりませんが、人口減を迎えた日本にとって、喉から手が出るほど必要な技術であることは事実です。
ロボットも同様で、介護分野ではケアスタッフの動きをサポートするパワードスーツが実用化されていて、製造現場でも人の代わりになるロボットの活躍が期待されています。
こういった新技術は社会にイノベーションを起こすというイメージがしやすく、エンジェル投資においても注目されやすい分野です。
5.エンターテインメント
AIやロボットが世の中に普及して人の労働時間が減ると余暇が増え、エンターテインメントにも注目が集まるでしょう。
2020年から翌年にかけては「鬼滅の刃」が大ヒットしました。アニメ・映画を手がけたのはソニーのアニメ制作部門のアニプレックスで、主題歌を歌うLiSAさんはソニー・ミュージックアーティスツ所属の歌手でした。まさに、ヒットの立役者的存在ですが、これを受けて2021年3月期決算で純利益が初めて1兆円を超えるなど、ソニー・グループの業績は絶好調です。
エンターテインメントにはこういった爆発力があります。世界的にはe-Sportsの人気も高まり、関連ビジネスにはチャンスがあるでしょう。
6.フードテック
世界的な人口増加、一方で労働人口の減少、資源の枯渇などにより、農業や漁業は苦境に陥りつつあります。
これに伴い、これらの分野でもハイテク化が進んでいて、農業であれば収穫ロボットなどのアグリビジネスを手がけるスタートアップや、今後の食糧難を見据えた代用肉や昆虫食の開発も有望視されているビジネスです。
「金のなる木」になれる企業を探す
いくつか挙げましたが、大事なのは、対象とするマーケットはどのくらいのサイ ズで、伸びているのか、そのままなのか、あるいは縮小しているのかを見極めることです。
言わずもがな、伸びているマーケットのなかで、その企業のポジショニングやライバルに対する競争優位性、シェアは拡大していけるかどうかなど、一つひとつの要素を確かめていき、すべてにおいて合格したなら投資対象になりえるはずです。
大手コンサルティングファームのボストンコンサルティングは、市場占有率と市場成長率のマトリクスで企業のビジネスや製品を位置づけ分析する「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」を提唱しています。
そのなかで、成長は低いものの占有率は高い「金のなる木(Cash Cow)」の状態が、最も有利だと述べています。
金のなる木のビジネスは市場の拡大を見込むことはできませんが、新規参入が少なくライバルが不在で、追加的な投資もあまり必要としません。自社の市場シェアが高いので、大きな利益が期待できるというわけです。
他方、成長率・占有率が共に高い「花形(Star)」はよい状況といえますが、市場の成長率が高いので競争が激化しやすく、占有率を維持するための施策が求められます。
成長率・占有率が共に低い状態の「負け犬(Dogs)」は撤退が検討される分野です。
市場成長率は高くても自社の占有率が低い「問題児(Question Mark)」 は、占有率を高めるための先行投資が必要であり、現時点では収益化できていない可能性があります。
製品・サービスの改善やマーケティングによって占有率が高くなると「花型」になることができ、他社が撤退して花形一強になると金のなる木の状態にまで持っていくこともできるかもしれません。ただし、施策に失敗すると負け犬になる恐れがあります。
こういったマトリクスに合わせて投資対象を選ぶというのも選択肢の1つでしょう。