
投資をされている方は、国債についてはよくご存じかと思います。しかし、実際に国債、特に米国債に直接投資をしているという方は意外と見かけません。
おそらく、「国債は儲からない」と思う方がほとんどかもしれません。確かに、国債はいわゆる理論上はノーリスク資産とみなされているため、単純に持っているだけでは多くのリターンは得られません。
しかし、国債であっても、複利で運用できる「ストリップス債」と呼ばれる超長期債を取引することにより大きなリターンが狙えます。
今回は、知っているようで意外と知らない米国債(ストリップス債)についてお伝えします。
米国債のポイント
まず始めに、米国債についてのポイントです。
これは、説明するまでもないことですが、初心に戻るという意味でも改めて見てみましょう。
- 高い信用力
米国債は、米国政府が元利金の支払いを保証しており、世界中の金融商品の中でも高い信用度を誇ります。 - 高い流動性
取引量が非常に多いため、容易に売買可能で、目的に合わせて長期保有も短期トレーディングもできます。
米国債は世界中の全ての金融商品の中で信用力が高く、発行額が多く、取引量が多く、かつリスクの低い資産と言われています。
ただし、もちろん米ドル建てなので円換算した場合の為替リスクなどは生じます。
米国債の種類と特徴
米国債には大きく分けて2種類存在します。一般的な社債と同じ「利付債」と、利金がなく複利運用される「ゼロクーポン債」です。
①利付債
額面で発行され、償還(満期)期日に額面金額が償還される債券です。半年に一度利金を受け取ることができ、2年物〜30年物まで定期的に入札を通して発行されます。
②ゼロクーポン債
利付債とは異なり、ゼロクーポン債は、期中に利払いがありません。その代わりに、額面から利回り相当額を割引いた価格で取引され、償還時に額面金額で償還されます。
投資家からみた利回りは、「購入時」と「償還(満期)または中途売却時」の価格差(キャピタルゲイン)と保有期間から計算されます。
途中利払いが無いので利払い時の再投資のリスクもありません。したがって複利効果を得やすいというメリットがあります。
現在、米国で割引方式で発行されている国債は「ストリップス債」として取引されており、ストリップス債=ゼロクーポン米国債ということになります。
ストリップス債とは
前述した通り、米国ストリップス債とは、発行された米国の利付国債をその利息部分と元本部分に分離して取引される元本部分にあたる債券です。
元本部分は分離された利息部分の現在価値に該当する割合を、額面から割り引いた価格で取引されています。
最終償還時には額面金額で償還され、購入時の額面が償還時の受取額となるために将来に向けた資金計画の立て易さが人気です。
ストリップス債の投資効果を例を使って説明します。
ストリップス債のポイント
ストリップス債には以下のようなメリットがあります。
- 複利効果を得られる
複利効果とは、利子を元本に加えて運用を続けることで、資産の増え方が大きくなる効果のことです。
複利運用は利子が利子を生むため、その都度利子を受け取る単利運用に比べて高い収益が期待できます。一般的に、運用期間が長くなるほど複利効果は大きくなります。
割引債は途中の利払いがないので、長期で保有することで複利効果を得ることが可能です。 - 利子の管理に手間がかからない
利付債は保有期間中に利子が受け取れるので、定期的なキャッシュフローが必要な方には魅力的です。一方で割引債は途中の利払いがないため、利子の再投資を検討する必要がなく資産形成に取り組めます。 - 資金計画をたてやすい
割引債は保有期間中キャッシュフローがないため、期中で受け取った利子の再投資リスクを排除して、資金計画をたてやすいのが特徴です。
当面使う予定のない資金で割引債の満期日まで運用できるのであれば、複利効果で効率よく運用でき、計画的にまとまったお金を準備できます。
一方で、ストリップス債には以下のようなリスクもあります。
- 中途売却で元本割れの可能性がある
購入した割引債を満期まで保有せず、中途売却する場合は売却時点の価格で取引されます。そのため、購入時より債券価格が下がっていれば、売却損が生じて元本割れとなってしまいます。 - 為替変動リスクがある
米国債は、為替変動リスクがあります。購入時より円安になれば為替差益を得られますが、円高になると為替差損が発生します。
ストリップス債投資で大きな利益を得る方法
では、ここからはストリップス債で具体的にどのように大きなリターンを得るのかについてお伝えします。
まず、ストリップス債の債券価格の動き方を見てみましょう。米国ストリップス債の単価は、満期までの期間と複利利回り(ディスカウント・レート)により、現在価値に割り引いて算出することができます。
残存期間が0年に近づくにつれ、単価が100に近づいていきます。また、同じ残存年数でも利回りが低いほど単価は高くなっていることが分かります。
こちらの図は、縦軸が時間、横軸が金利によるストリップス債の理論価格です。
つまり、金利動向によっては元本が上下するものの、金利が変わらなければ理論価格通りに満期に向けて100に近づいていく、ということです。
ここが非常に重要なポイントです。ここで改めて金利と債券価格について説明します。
金利と価格
債券価格と金利は逆の動きをする、シーソーの関係になっています。つまり、金利が上がると債券価格は下がり、金利が下がると債券価格は上がります。
一般企業が発行している社債にもこれは言えることですが、社債の場合は金利との関係よりもその企業の信用力による価格変化の方が大きいので必ずしもこの通りになるとは限りません。
しかし、米国債には信用リスクは理論上ないとされているため、金利上昇=債券価格下落(金利低下=債券価格上昇)という計算通りになります。
改めて上記の債券単価シミュレーションの図を見てみましょう。縦が時間軸、横が金利軸です。
先ほど、満期が近づくにつれ(時間がたつにつれ)、価格は上昇していくと説明しました。それに加えて、金利の変化による価格変化を見てみます。
例えば、今市場の金利が3%だとすると、30年もののストリップス債価格は額面100に対して40.92です。もし、金利が0.5%下がり2.5%になった場合の債券価格は、47.45です。
なんと超長期ストリップス債の価格は、金利が0.5下がっただけで6.53、割合にすると約15%も上昇しています。
逆に金利が上昇した場合は同じだけ債券価格は下落するということにもなります。このポイントが理解できるかどうかで投資の視界はがらっと変わります。
次に、最近の金利の状況を見てみましょう。
利上げと国債
下のチャートを見ると、過去20年以上米国の超長期金利は下落基調にありますが、2020年より大幅に上昇(債券価格は下落)しています。
過去の政策金利の下落局面(利下げ時)においては、超長期金利も大幅に下落(債券価格は上昇)しています。
つまり、米国の政策金利が上昇している時(利上げ時)においては、超長期金利も上昇しており、利下げ時には超長期金利も連動して下がります。
こう見ると、2020年からの米国の利上げによる金利上昇により、ストリップス債の債券価格も大幅に下落しています。
現状、まだ利上げは止まっていませんが、近い将来(市場では2023年半ばと予想)利上げをストップし、ある程度高い政策金利で据え置いたのちに利下げに転じると言われています。
株式などの金融商品と違い、金利は上がり続けたり下がり続けることはありません。上がったものはどこかで政府により調整され下がります。
と考えると、米国金利が低い時にストリップス債を買うのではなく、米国金利が高い時にストリップス債を購入しておけば将来の金利下落時に大きなリターンを得ることができるということです。
ストリップス債のまとめ
以上、米国債の仕組みからストリップス債の投資手法までご理解いただけたかと思います。
米国という最上級の信用度がある債券を使い、大きなリターンを上げることができるのがストリップス債のポイントです。
途中売却前提で購入される方も多い一方で、将来の償還金額が大きく増えて返ってくる商品性から、将来の資産として保有される方、また自身の子・孫のために残す資産として保有される方もいます。
ただし、買うタイミングについては為替動向や金利動向を見ておく必要があるため、ご興味のある方は専門家に相談してみてください。もちろん当メディアでも受け付けております。