
ここ最近、日本政府主導でエンジェル投資やスタートアップ成長のための支援策が続々と出ています。
これらの概要は新聞やテレビでも多く取り上げられているため、なんとなく耳にした方も多いはずです。
今回はその国策となりつつあるスタートアップ成長支援について、エンジェル投資の観点でポイントをまとめてみました。
「令和5年度税制大綱」による国民の資産所得倍増プラン
2022年12月16日に、与党による「令和5年度税制改正大綱」が公表されました。
令和5年度(2023年度)税制改正は、個人や企業、そして地域に眠るポテンシャルを最大限引き出すというメッセージを税制において具現化したものです。
国民の資産所得倍増につなげるため、NISAの抜本的拡充と恒久化が行われることはご存じの方も多いでしょう。
エンジェル投資においてこの税制大綱で重要な改正は、「スタートアップ再投資優遇税制」の創設です。
1.スタートアップ再投資優遇税制の創設
スタートアップ再投資優遇税制とは、【その設立の日の属する年において一定の要件を満たす株式会社により設立の際に発行される株式(特定株式)を払込みにより取得をした一定の居住者等は、その取得をした年分の株式等に係る譲渡所得等の金額の合計額からその特定株式の取得に要した金額の合計額(当該年度の株式等に係る譲渡所得等の金額の合計額が限度)を控除する特例】です。
【その取得をした特定株式の取得価額は、当該控除をした金額のうち20億円を超える部分の金額をその取得に要した金額から控除した金額】とされます。
わかりやすく言うと、投資家が株式の売却により得た利益をスタートアップに再投資した場合、20億円までは売却益が非課税になるということです。
例えば、エンジェル投資をしていた企業がイグジット(IPOやM&A)をして投資家の利益が20億円出たとします。そしてその利益をもとに別の企業に20億円投資した場合、その利益の20億円は非課税となります。
実際にエンジェル投資で20億円利益が出ることは普通だと思いますが、そもそもその20億円をまるまる再投資するなんてことは金額が大きすぎて現実的ではありませんが。
つまりこの制度は、エンジェル投資家にとってかなり優遇される税制となります。
2.エンジェル税制の要件緩和
加えて、今回の税制改正では、エンジェル税制の要件緩和が行われています。これは、スタートアップ企業の成長を「創業」、「事業展開」の観点から促す趣旨から講じられました。
具体的な緩和内容はこれから詳細が出てくることになりますが、現状のエンジェル税制でもかなり投資家が優遇されている内容です。
ただ、適用される企業側が用意する書類や手続きは多く、おそらくこのあたりを中心に要件緩和をすることになるのだと思います。
ちなみに、このスタートアップ再投資優遇税制の特例はエンジェル税制とのどちらかを選択することになります。
(参考記事:エンジェル投資とエンジェル税制)
「スタートアップ育成5か年計画」によるエンジェル投資促進プラン
この税制大綱の発表の少し前、11月24日に内閣は「スタートアップ育成5か年計画」を策定しました。
これは、スタートアップへの投資額を5年後の2027年度には10兆円規模にすることを目標にしたスタートアップ育成強化の方針です。
こちらでもエンジェル投資についての税制措置についても言及されています。
1.2022年は「スタートアップ創出元年」
岸田内閣は、2022年をスタートアップ創出元年と位置付け、スタートアップ担当大臣を設置したほか、過去最大規模となる1兆円の予算が閣議決定されました。
- 日本では現在、多様なスタートアップ企業が生まれてきているものの、開業率やユニコーン(時価総額10億ドル超の未上場企業)の数は、米国、欧州や中国に比べ、低い水準で推移していること
- 既存の大企業でも、スタートアップ企業をM&Aで買収したり、スタートアップ企業との協業をしたりして新技術を導入する策を行った場合、持続的に成長可能となることが分かってきたこと
これらを背景として、「2022年をスタートアップ創出元年とし、戦後の創業期に次ぐ、第二の創業ブームを実現する。そのために、スタートアップの起業加速と、既存大企業によるオープンイノベーションの推進を通じて、日本にスタートアップを生み育てるエコシステムを創出する」とされました。
この投資額は、2022年現在8,000億円規模です。それを「スタートアップ育成5か年計画」の実施により、5年後の2027年度に10倍を超える規模(10兆円規模)とすることが目標として掲げられました。
2.ユニコーン企業数で遅れを取る日本
さらに、この計画には、将来ユニコーンを100社創出し、アジア最大のスタートアップハブとして世界有数のスタートアップの集積地になることを目指すとも書かれています。
ユニコーンとは、「時価総額10億ドル超の未上場企業」のことです。世界では、2022年10月時点で合計1,198社のユニコーン企業が存在します。
国別でみると、アメリカの646社が最多で、次いで中国が172社、インド、イギリス、と続きます。
では、日本はどうかというと、10社程度しかありません。出所により若干のズレはありますが、GDPでは上位のはずの日本がユニコーンでは世界で圧倒的に遅れています。
これを、100社以上とするとなると10倍です。いつ実現できるかはわかりませんが、政府主導で相当本気にならないと難しい数字だと思います。
3.スタートアップへの投資を促すための措置
「スタートアップ育成5か年計画」の中でエンジェル投資についても優遇される措置に言及されています。
- 【創業者などの個人からスタートアップへの資金供給のため、保有する株式を売却してスタートアップに再投資する場合の優遇税制を整備する。】
→これは上記の税制大綱で早速盛り込まれました。繰り返しますが相当エンジェル投資家にとって有利な内容で、効果も大きいと思われます。 - 【エンジェル税制について、税制優遇を受ける際に必要な申請書類の削減などの手続きの簡素化・オンライン化を検討する】
→こちらがエンジェル税制の要件緩和です。現状、投資家が手続きする内容はそこまで複雑ではないのですが、企業側が煩雑であるため、このあたりからまず簡素化するということだと思います。 - 【エンジェル投資促進のため、エンジェル投資家・スタートアップ間の情報共有やマッチングを行うプラットフォームの普及を図る】
→投資家、企業に対する優遇措置をしただけではスムーズに投資が増えるとは限りません。まさに私たち(Hedge+)や金融アドバイザーなど、投資を仲介する業者に対する促進策が必要不可欠です。
4.株式投資型クラウドファンディングの活用に向けた環境整備
株式投資型クラウドファンディングは、非上場企業が株式を発行し、インターネットを通じて多くの人から少額ずつ資金を集める仕組みです。
(関連記事:クラウドファンディングの5つのタイプ:投資に適しているのは?)
「スタートアップ育成5か年計画」では、【現在の発行総額上限(1億円)を超える資金を投資家から調達することを可能とすること】が検討されています。
まだ株式型クラウドファンディングはスタートしてから間もない制度ですが、投資額上限や発行上限が少ないことなど、さまざまな意見も出始めています。
【実際のニーズや投資家保護の観点も踏まえながら、必要な見直しを図る】とされているため、株式型クラウドファンディングも今後整備されていくものと期待されます。
本記事の一部項目の内容については、今後の国会における法案審議の過程等において、修正・削除・追加等が行われる可能性があることにご留意下さい。