
ここでは、ヘッジファンド投資にとっての代表的なリスクを説明します。
一般的な金融商品と重複するリスクはあえて省き、ヘッジファンド特有のリスクについてお伝えします。
流動性
ヘッジファンドの流動性は他の投資に比べて低く、すぐに解約できないファンドが多いです。
戦略次第で差があるものの、四半期ごとまたは毎年ごとでないと換金できないのが一般的でしたが、ここ数年で月次、週次などの解約可能なファンドも増えてはいます。
ただし、実績のあるマネージャーほど、投資家からの人気を背景に強気の条件設定をするケースが多いです。
そして、解約換金のための時間がかかることにも留意しておきたいです。解約日の30〜90日前までに書面による事前通知を求める場合が多く、実際に解約資金が払い出されるには、解約日からさらに同程度の日数を要することが多いです。
また、ロックアップと称する資金凍結期間を設定している場合もあります。投資後一定期間、解約を認めないという条件です。
人気のあるマネージャーほど、安定した環境で運用に専念するために、長期間コミットしてくれる投資家を期待しています。
また、腰を据えた長期投資家にとっては、短期間で資金の出入りをする投資家の存在は迷惑にもなります。
したがって、ファンドとしての流動性が高ければ投資対象として優れているとは限らないのです。
透明性
ヘッジファンド投資の大きな課題のひとつに、情報開示の問題があります。
投資対象や戦略が複雑であるために開示が容易でないことも事実ですが、運用手法そのものにリターンの源泉があるため、マネージャーが情報開示に対して慎重にならざるを得ないことが最大の理由です。
安易な開示は、ポートフォリオを危険にさらしたり、競合者の参入などを通じて、リターンが得にくくなってしまいます。
しかし、客観性と継続性が担保されていることが重要で、マネージャーによる恣意性が排除される態勢となっているかがポイントです。
一方、流動性の高い投資戦略を採用するファンドの一部には、積極的に情報開示するばかりか、特定のプラットフォームを利用するなどして日次の情報を提供するところも出てきました。
開示内容についても、個別銘柄レベルのポジションまで開示するケースもあり、定期的なマーケットコメントや今後の方針についての報告会などを提供するところもあります。
こうした情報開示による透明性の向上は、パフォーマンスや流動性と並び、他のヘッジファンドとの付加価値として大きな比重を占めるものであり、投資家の観点からは、リスクを低減させると同時に、戦略への理解も深めることができ、マネージャーとの信頼関係も作ることができます。
キャパシティ
昨今のヘッジファンド業界において、資金流入が多すぎても運用しづらくなるということが起きています。
たとえば、時価総額の低い株の取引を行う場合、金額が大きすぎると買えないなんてことも起きてしまいます。
また、現実問題として有能かつ実績のあるファンドに資金が集中する結果、新規資金受入れを停止するファンドが増加しています。買いたくても買えないファンドが多数存在します。
集中投資
過度なリスク集中は不測の大きな損失を被る場合があります。
ただし、長期投資の集中投資と、レバレッジをかけた短期投資を並べて比較することはできません。
採用する各戦略に応じたリスクの度合い、特に市場の流動性に対する規模などを十分に理解した取引を行う必要があります。
スタイルドリフト
採用する戦略を市場環境に応じて変えていくことをスタイルドリフトといいます。相場の環境変化などの要因もあって、構造的にリターンがあげにくくなる状況が生じ得ます。
従来の得意分野から一気に戦場を変えると、リスク管理が機能しないケースも出てくる可能性もあります。
モチベーション
ハイウォーターマーク方式を採用するマネージャーが、一度大きな下落を受けてしまうと、 成功報酬を受け取れるようになるまで長い時間を要することになります。(参考記事:ヘッジファンドのコストを理解する)
成功報酬が当面期待できないとなると、マネジャーの意欲を大きく阻害することも考えられます。
その結果、投資家に負担をかけることを十分に認識していながら、いったんファンドそのものを清算してしまい、時機をみて再立ち上げを目指すケースも散見されます。
不正リスク
これは直接のダメージが甚大です。特にファンドの粉飾、インサイダー取引など法令違反や資金洗浄など不適切な取引に伴う摘発・処分に該当するケースなどが挙げられます。
これは滅多にないことではあるものの、回避するには経営者・運用者・株主などしっかりと見ておく必要があります。
どのリスクを許容できるか決めておく
結局、何をリスクとして認識し回避しながら、何を求めるのかは個々の投資家のスタンスに依存します。
投資家が直面するリスクをすべて定量化することは困難であり、リスク管理を実現するためには、定性的な判断が何より重要でしょう。
その意味でも、投資家として、リスクの許容範囲と回避しなければならないリスクを明確化しておくことが大事です。