
ヘッジファンドの報酬体系は、国内の投資信託とは異なる上、ほとんどのヘッジファンドが海外にあることなどから固有の用語が用いられる場合も多く非常にわかりづらいです。
今回は、そのヘッジファンドの報酬体系について解説します。
管理報酬 (マネジメント・フィー)
まず、投資信託などと同様に、運用資産残高に基づいて徴収されるのが管理報酬(マネジメント・フィー)です。
運用資産残高に対して、年間1〜2%に設定されるのが一般的で、これは運用会社経営のための経費に当てられます。
つまり、預けた金額の時価に応じた報酬が引かれることになります。投資信託は毎営業日徴収しますが、ヘッジファンドの場合は毎月や毎四半期計算されることが多いです。
成功報酬(パフォーマンス・フィー)
投資信託などと違うのが運用成果に対する報酬として徴収される成功報酬(パフォーマンスフィー)です。これがファンドマネージャーの大きなインセンティブとなります。
インセンティブフィーと呼ばれることもあり、一般的には、定められた一定期間(1年単位が一般的)に計上された運用益に対して10〜20%が徴収されます。
個人富裕層を中心とするヘッジファンド投資家は、有能な運用者のスキルと良好なパフォーマンスの対価として払うことになり、投資家の利益とも一致するこの体系が多く採用されています。
成功報酬を計算する際、 何をもって成功と定義するのかが重要な点です。投資家が期待する目的やヘッジファンドの運用スタイルも異なるため、事前に確認しておく必要があります。
この成功報酬の計算方法について解説していきます。
ハイウォーターマーク方式
ハイウォーターマーク方式とは、ファンドの成績が過去のピークを上回った部分についてのみ成果として認識し、成功報酬を払う方式です。
例えば、100の価額で資金を預かったファンドマネージャーが1年目で損失を出し、価額は90に減少したとします。そうすると、2年目に利益を上げたとしても、100を超えた部分にのみ、初めて成功報酬が課されることになるわけです。
この方式は、ヘッジファンド業界で広く支持され、全体の75%以上で採用されていると言われています。
ファンドマネージャーにとって、成功報酬がリスク・テイクのインセンティブであるため、より大きなリターンを上げようとするインセンティブが働きやすい仕組みです。
ハイウォーターマーク方式ではなく、毎年の値上がり分に対する成功報酬の計算の場合、投資家としては多額の成功報酬を支払うことになってしまいます。
そこで、このような問題を避けて、投資家とマネージャーの利害関係が矛盾しないように、投資家が獲得した利益をシェアする場合に限り成功報酬の配分を行う方法がハイウォーターマーク方式です。
ハードルレート方式
なかには、投資元本を上回っただけでは満足しない投資家も存在します。そこで、ある一定の期待レートを客観的に定義し、それを上回った部分に対して成功報酬を支払うとするのがハードル・レート方式です。
ハードル・レートは、その設定が難しいです。その多くは、マネージャーがベンチマークとしているものを利用しています。
例えば、短期金利の利回りなどを使う場合が多いです。
逆に、ケースとしては多くないですが、年4%など絶対金利をハードルとして設定する例もあります。
この方式を採用しているファンドは、特定の投資家の専用ファンドとして組成する場合に、マネージャーと投資家の協議によって取り決められるなんてことがあります。
ハードルレートを導入しているのはヘッジファンド全体で10%程度とみられますが、ハイウォーターマークとともにヘッジファンド業界固有の概念なので理解しておくと良いでしょう。
投資家とファンドの利害が一致
このように、報酬の取り方はヘッジファンドは投資信託と比べて異なる点が多いです。
投資信託のように販売手数料を取るのではなく、成功報酬として成績に応じてかかるという点は、投資家とファンドの利害が一致しているためWinWinになります。
マネージャーは、自らの運用戦略に照らして適当かつインセンティブを極大化できる手法を導入すべきであり、投資家もマネージャーの能力を最大限に発揮し、期待に応えてもらうために効果的な仕組みとして成功報酬を理解するべきです。
また、過去の運用成績をチェックする場合、成功報酬を含めたコストを控除してあるのかないかにより、投資家にとっての実質のパフォーマンスは大きな違いがあります。
実際に計算をしてみると、管理報酬1%、成功報酬20%の報酬で年10%の利益を上げた場合、マネージャーの受け取る報酬は年2.8%、投資家の受け取るリター ンは7.2%となります。ファンドのマーケティング資料等に掲載してある実績がこうしたコストを控除してあるのかどうか、十分確認しましょう。