
2012年2月27日、日本を代表する電機各社の半導体部門が合流して生まれたエルピーダメモリが会社更生法を申請し、事実上倒産しました。
国策である半導体メーカー、エルピーダメモリの倒産劇は金融市場の関係者にとって衝撃的でした。
エルピーダは、いわゆるプロの投資家のほとんどが損失を被ってしまったのです。
実は破綻の一報が届く直前まで、債券はきっちり償還されると思われていたのです。少し振り返ってみましょう。
公的ローンが残っていたにも関わらず
同社は2月14日に発表した2011年度第三四半期報告書に継続企業の前提について、不確実性が指摘されていました。
しかし、2009年6月に産業活力再生法の適用を受け、認定された事業再構築計画が2012年3月末までのものであり、それに基づいて日本政策投資銀行が主導したローン700億円の満期を4月2日に迎える予定でした。
市場は、公的な金融機関が関与したローン案件をいきなりデフォルトさせる可能性は低いと考えていました。
ローンが法的破綻の直接の原因となれば、経済産業省主導で実行したシンジケートローンが倒産の引き金を引いたことにもなるからです。
多くの残高が残っていた3月満期の社債は、そのローンの満期日(=借り換え予定日)より前であったことも市場参加者の中で安心感を醸成していました。
また、一般的にあれだけ大きい会社が法的に処理される場合は、政府が相応の関与をすると市場では信じられており、エルピーダに関しても例外ではないと思われていました。
つまり最終的な倒産の判断に至るとしても、関係各所の調整にかなりの時間を要するであろうと考えられていたのです。
慣例を完全に裏切る倒産
エルピーダに関して、当時の市場関係者の多数派の意見は、4月のローンの借り換えが1回はなされ、秋くらいまで猶予が与えられ、そこまでに再構築のメドがつかなければいよいよ法的処理の可能性もあるかも。というものでした。
公開情報に基づく相場の予想などというものは、基本的に想像でしかないため、市場が正確に倒産のタイミングを予想できないのは当然です。ただし、それまでの商慣行からある程度のシナリオを予想していました。
ところが2月の下旬、それも金曜日でもないタイミングで、預金を他行に送金したうえで裁判所に倒産を申し立てるという、大企業の破綻プロセスとしては想像を絶する形で倒産が発表されたのです。
これは、市場の予想を完全に裏切った動きでした。エルピーダの倒産は、一流外資系のトレーディングデスクに大きな損害をもたらしたという噂が駆け巡りました。
エルピーダは日本の一流半導体メーカーのメモリ部門を統合させて発足させた日の丸半導体メーカーであり、今ではもし時の政権が自民党であったなら違った展開になったであろうと言われています。
日本の電機産業に大きな悪影響
エルピーダに関しては、所轄官庁の関与度合い、当時の民主党政権の関与度合い、救済候補者であったマイクロン社の動きなどについての読みをほぼ全員が誤ったわけです。
しかし、いずれにしても以前の大型倒産のパターンとは随分と異なる展開であり、その結果として、いわゆるプロの投資家に想定外の損失をもたらす結果となったのです。
同時に、その後のエレクトロニクス系企業の業績悪化に際して、市場が過剰反応する副産物を生む結果ともなりました。
社債投資のリスクの1つ
エルピーダで多くのプロが損失を被りましたが、一番の要因は倒産タイミングが予想より早かったことです。
倒産するその日まで、翌月満期の社債までは償還されると大半の投資家が考えており、その時点ではそれは合理的な考えであったと思われます。
経営立て直しに向けた提携交渉が相次いで暗礁に乗り上げた背景でさまざまな関係者の思惑も絡み、倒産が早まったかなり特殊なケースだったよ うです。
同様のケースが今後発生する可能性は低いですが、社債投資のリスクの一つとして認識しておくといいかもしれません。