
社債発行体の倒産事例として忘れることができないのは、日本航空(JAL)です。2010年1月、日本航空は、2兆3,000億円という事業会社としては戦後最大の負債を抱えて、会社更生法の適用を申請し、事実上倒産しました。
日本航空の倒産は各所で報じられてきたこともあり、詳細には言及しませんが、社債投資の観点で少し振り返ってみます。
大型倒産にも関わらず金融市場への影響は軽微
日本航空は長期的な業績不振にあえいでおり、格付が低迷し、公募社債の発行もできない状態が継続していました。
また、市場に日本航空の経営不振が知れわたり、実際に倒産したときには社債の残高も残りわずかで、資本市場への影響は非常に限定的でした。
日本航空の信用リスクに関して、市場では連日話題となっていましたが、当時の市場参加者が判断に最も悩んだのは、国が関与して法的な倒産を回避するのか、しないのかということでした。
政権交代により政府支援が不透明に
日本航空は、倒産を回避するために政府からサポートを受けるであろうと思われていました。
- 特殊法人としてスタートしたこと
- ナショナルフラッグキャリアであったこと
- 地方赤字路線に地元の政治家と利害関係が絡んでいるのではないかとの推測
以上のことから、倒産で処理することはないであろう、と考えるのが市場の常識となっていたのです。
しかし、2009年に民主党が政権をとって以降、政府支援の在り方について見方が不透明となりました。地方赤字路線を誘致した地元の大物政治家はいまや与党ではなく、それどころか、もう議員ですらない人が多数でした。
そこまで信用リスクを取って良いのか
最終的に法的処理となった日本航空の信用リスクをとることによって利益をあげることは、果たして可能だったのでしょうか。
こうした政治動向を読む必要がある銘柄の投資に際して、ファンダメンタルズの分析から投資方針を決めるアプローチはまず機能しません。
単純に教科書的な分析をする限り「倒産するしかない」というごく当たり前の分析結果が出ます。
ゼネコンをはじめ、ファンダメンタルズでは存続が到底不可能と見られた会社が、政府の力によって延命されゾンビ化した例も多数あります。
また、そういった企業のどの金融商品に投資するかという点も非常に難しいです。
通常であれば、対象企業が倒産した場合は、最初に毀損するのが株式で、次が無担保債券、担保などによって保全されている債券、という順になります。
企業の信用リスクが高まってくれば、当然、先の順番で価格の低下が発生するはずです。
しかし、本来的には倒産すべき会社であっても、大型倒産はときの政権のイメージ悪化につながるため、政府が望まないという結果も十分にありえます。
結果的に社債でも87%の毀損
日本航空も、一部の債権者のみが損失を被る私的整理であれば、社債が100%弁済されることも可能でした。
しかし、実際の法的整理では87%の損失となりました。このような投資で勝負するのは、博打性が高くなりすぎます。
日本航空の場合、ときの政権が民主党だったこともあり、どのような判断をするか合理的に予想することが極めて困難でした。
ファンダメンタルズが悪く、倒産回避に政府の強いサポートが欠かせない銘柄において、政府のサ ポート度合いに確信がもてないときは投資すべきではありません。
日本航空でも当時、ハイイールド投資の投資家は満期までの期間が長い債券には投資しませんでした。
「日本航空だから政府が守るだろう」は過ち
日本航空の場合はOBの年金問題でこじれており、それに手をつけずに再建をすることは不可能でした。
結局、ファンダメンタルズが異常に悪い企業の信用リスクをとるべきかどうか。
政府等の介入により法的に回避される可能性がある場合には、確固たる自信がない限り、合理的なリスクテイクはできません。
したがって投資対象としない、とするのが正しい投資スタンスであるといわざるをえないのです。