
米連邦準備理事会(FRB)は、2022年3月に利上げを開始しました。米国が本格的な利上げ局面に入ったのは、インフレが40年ぶりの高さまで上昇したことによります。
インフレは米国だけでなく世界的な現象であり、欧州中央銀行(ECB)や世界各国の中央銀行も、物価上昇を食い止めるために利上げを開始しています。
インフレに関しては、日本も例外ではありません。日銀は2013年1月に「物価安定の目標」を消費者物価の前年比上昇率2%と定め、これをできるだけ早期に実現するという約束をしています。
消費者物価指数(コアCPI)の上昇率は、直近はまだ他の先進国に比べれば低いですが、日本でもインフレの足音が聞こえています。
そこで今回は、インフレと投資に関して改めて整理してみましょう。
物価が上がると現金は減る
物価が上がると実質的に現金の価値は目減りするということはご存じだと思います。例えば、2%の物価上昇が起きた場合、1,000万円の現金の価値は1年後に実質的に約980万円、10年後は約820万円にまでなってしまいます。
つまり、何もしないで現金のまま保有した場合は物価上昇時においては価値が減り続けることになります。だから「インフレに負けないような資産を持ちましょう。投資しましょう。」という話になります。
「デマンド・プル・インフレ」と「コスト・プッシュ・インフレ」
ところで、インフレにはいくつかの種類があります。大きく分けて、需要が増加することによって引き起こされる「デマンド・プル・インフレ」と生産コストなどの費用が増加することによって発生する「コスト・プッシュ・インフレ」が存在します。
好景気による物価上昇が「デマンド・プル・インフレ」で良いインフレ、景気回復を伴わなくても物価が上がるのが「コスト・プッシュ・インフレ」で良くないインフレと言えます。
良いインフレと良くないインフレが同時発生している米国
米国は、原油などのエネルギー価格の上昇に加えて、需要の強さもインフレ要因となっています。2021年10-12月期のGDPは、コロナ前の水準を既に3%以上、上回っています。特に個人消費は非常に強く、コロナ前の成長トレンドを大幅に上回って推移しています。
こうした経済の強さを反映して、労働需給は歴史的とも言えるほどにひっ迫しており、賃金が大幅に上昇しています。このまま労働需給のひっ迫が続けば、目標を大幅に上回るインフレが定着してしまう恐れがあります。
なので米国では、利上げによって今すぐ需要を抑制することが、理に適っている正しい判断といえるでしょう。
また、FRBは地区連銀経済報告(ベージュブック)で、経済活動は緩やかなペースで拡大しているとの見解を示しています。新型コロナウイルスの感染者数が減少したことを受けて経済が活性化し、サプライチェーンの混乱による高インフレにもかかわらず経済の回復力が続いている事例が報告されています。
つまり、景気回復によるインフレとコスト増によるインフレの二つが同時発生していると言えます。
エネルギー価格の上昇と止まらない円安
一方で日本はどうでしょうか。日本の景気回復は遅れています。2021年10-12月期の実質GDPは、米国とは逆に、コロナ前を下回っている。消費も弱いです。「日銀短観」でも、企業の景況感は現状、先行きともに弱い結果になっています。
日本では交易条件が大幅に悪化しています。交易条件とは、輸出物価と輸入物価の違いです。米国の場合は、国際商品市況が大幅に上昇しても、原油も食料も自国で産出しているので、交易条件は悪化しづらいです。
しかし、日本のように輸入に頼る国では、交易条件が大幅に悪化し、輸入代金の増加という形で所得が海外へ流出してしまいます。
さらに止まらない円安です。2000年代までは、「日本は輸出企業が多いので円安は良いこと」と言われていましたが、現在そうした日本の企業の構図は、原材料や部品を海外から輸入し、それを加工して販売する、という構図です。
つまり、円安と資源高は仕入れ価格の上昇であり、それを販売価格に転嫁することにより最終商品の価格が上がる=コスト増による、良くないインフレということになります。
実際、2022年に入り、企業間での物価を示す企業物価指数は前年比で大幅に上昇となっています。
企業物価指数は高止まりしているものの消費者物価指数はそこまでの上昇ではない、ということは米国などと異なり、企業間での物価は大幅に上昇しているものの、商品の値上げに転嫁できておらず企業の収益を圧迫していることを示しています。
これにより、消費者物価への影響も懸念されています。実際その状況を踏まえ、日銀の異次元緩和の10年目にして初めて、消費者物価が2%程度の伸びを越える物価上昇を見せてきています。日本も30年ぶりのインフレになる可能性があります。
これが好景気によるインフレ「デマンド・プル・インフレ」だと良いのですが、実際は円安・資源高による「コスト・プッシュ・インフレ」です。
少なくとも景気回復している所へ投資する
ここまで読むとお分かりかと思います。インフレに勝つ投資をするためには、少なくとも良いインフレが発生している所に投資をすべきです。
インフレに強いと言われる資産、円安に強いと言われる外貨に資金を振り向けるべきということは既に周知の事実かと思います。ではどこの株、どこの通貨に投資をするか考えると、今は米国が強いと言われている所以がよくわかります。