
2021年3月、2つのオークションが世界的なニュースになりました。ひとつは、デジタルアート作家「Beeple」ことマイク・ウィンケルマン氏のNFT作品「Everydays-The First 5000 Days」が約75億円で落札されたこと。もうひとつは、Twitterの共同創業者のジャック・ドーシー氏のNFT化された初ツイートが約3億円で落札されたことです。
このように、最近様々なところで「NFT」という言葉を聞くようになりました。また、投資対象として適格か否かといった相談も良く来ます。本日はその「NFT」について探ってみました。
NFTはただのバブルか
過去を振り返ると、インターネット黎明期も世の中に新しい技術が普及するときは突然のきっかけと共にある種の怪しさをまとった熱狂がありました。
いまNFTは、そういう意味で新しい時代の入り口に立っている状況かもしれません。さまざまな領域で急速に新規ビジネスが立ち上がっているからです。
現在のNFTビジネスの状況は、20年ほど前のいわゆるITバブルのころに似ていると言われています。ご存じのように、わずか2~3年でITバブルは弾け、多くのベンチャー企業が消えていきました。その危機を乗り終え、生き残った会社がGoogleやAmazonです。
つまりITバブルは弾けても、その後ITビジネス自体は急成長したというわけです。こうした現象は、10年ほど前のモバイルゲームのブームでも見られました。
NFTとは
念のため、NFTについて解説します。NFTとはNon-Fungible Tokenの略です。ファンジブルが代替可能という意味なので、ノンファンジブルは「代替不可能」、つまりひとつひとつが固有で唯一無二ということです。
「世界にひとつだけのデジタル資産」と覚えておけば良いでしょう。
現在、流通しているデジタル資産といえば、ビットコインなどの暗号資産です。暗号資産の場合、Aさんが持っている1ビットコインとBさんが持っている1ビットコインは全く同じ価値のものです。
NFTは暗号資産とは違い、ブロックチェーンの中に個別の識別サイン、「唯一無二の固有のデータ」が記録されています。それによってひとつひとつのデジタル資産はそれぞれが固有のもの、入 れ替え不可能なものになっています。
ブロックチェーンについても少し確認しておきましょう。ブロックチェーンとは、ごく簡単にいうと「管理者が存在しない台帳」のことです。
ブロックチェーンの特長は大きく3つあります。一つは改ざんできない、コピーできないこと。もうひとつは価値そのものを移転できること。そして3つ目は追跡可能でそれを誰でも閲覧可能なことです。これはインターネットではできません。ブロックチェーンは、インターネットの上にくる技術といわれています。
NFTと投資
では、星の数ほど存在するNFTの中でどのようなジャンルが人気を集めていたのでしょうか。NonFungible.comのデータによると、2021年、最も取り引きされたNFTは「コレクティブル」が多かったという結果となりました。
「コレクティブル」はNFTブームの火付け役ともいえ、NFTの唯一無二性によって生まれた希少性に資金が集まったといわれています。
一見ただのドット絵のデジタルデータに見えたとしても、その希少性から将来的な価格高騰が期待され、世界中でNFTを欲しがる人が急増、数千万円で取り引きされているものもあります。
「スポーツ」は希少性だけでなく、熱狂的なスポーツファンがもつ所有欲を刺激することで大きな資金が集まったものと考えられます。サッカーやバスケなど、スター選手のNFTは数千万円の価格で取り引きされています。
NFTは一過性のブームか?
実態のないパソコン上の「ただのデータ」に資産価値がつき始めているという事実を、大多数の人はどのように受止めているか。この受け止められ方によって、今後の長期的な資産になりうるか、かかっていると思います。
もしあなたが、単なる流行り物のバブルをウォッチしておこうという程度の認識でいるとしたら、その裏に潜む本質を見逃しているかもしれません。
その背景を理解するにはまず、今日の世界経済のトレンドに注目する必要があります。今、世界経済は無形資産によって支配され始めています。
「無形資産」とは、物的な実体の存在しない資産のことです。 たとえばブランド商標権や著作権、データ、ソフトウェアなどといった知的財産、また、技術やノウハウを持つ従業員の人的資産、企業文化や製品管理プロセスなどといったインフラ資産なども含みます。
米国では、GAFAの巨大化に象徴されるように、不動産や自動車など、この物質的な「モノ」を売る企業よりも、このような無形資産に多くの投資を行い、デジタルを活用してサービスを提供する企業が多くの価値を生み出し、経済の中心となっています。
その意味で、NFTは単なるバブルではなく、大きな流れの中の一つの時代かと期待されています。今後ひとつの経済インフラとして伸びていくのではないかと思われます。NFTは 「無形資産のイノベーション」であると言えるでしょう。
「貯蓄から投資へ」の流れが加速するかもしれない
日本では、「貯蓄から投資へ」というスローガンが掲げられるようになってしばらく経ちますが、その流れは遅く、 日本人の家計金融資産は依然として現預金が主です。
デジタル資産で興味深いのは、金融的な価値と、そのトークン自体が用途をもつユーティリティ要素が一緒に設計できることです。NFTは、より感情的で個々人の趣味を反映するものとして、それを補足するような機能を果たすかもしれません。
たとえば、NFTアートを購入する場合など、初めて証券口座を開設して難しい目論見書を読み解いて金融商品を買うよりも、気に入ったデジタルアートを購入しリターンを得るという体験が、金融リテラシーの低い日本人が金融取引に関心を寄せるきっかけになるかもしれません。
NFTは、非常に高価で、一部の人にしか価値がわからないニッチな市場として始まりましたが、今後さまざまな課題を超え大衆向けのものとして発展していくことが期待されます。