
ソフトバンク・ビジョン・ファンド (SoftBank Vision Fund)とは
2017年、ソフトバンクグループのCEOである孫正義と、ドイツ銀行で活躍したラジーブ・ミスラによって設立された、運用額10兆円の巨大VCファンド。
100億円から1000億円という前代未聞の金額を、世界中のユニコーン企業に投資するスタイルで、プライベートエクイティ投資業界に波紋を呼んでいます。
今回はそのソフトバンク・ビジョン・ファンドについて書いていこうと思います。
前代未聞の投資ファンド
2016年10月、ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏は、10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を発表しました。そして1,000億円単位という、前代未聞の規模で資金を投資し始めました。
アリババなどの投資実績がある孫正義氏が、中東の産油国の政府系ファンドのお金を集めてくることによって投資ファンドが作られました。そのコンセプトは、世界中のAI分野のユニコーンに資金を投じることです。
ビジョンファンドはシリコンバレーの部外者でありながら、100億円、1,000億円単位の資金力によって、大量のユニコーンたちにお金を注ぎこむようになりました。
これは競合する スタートアップの勝敗を左右するほどの金額であったため、その一挙手一投足をテクノロジー業界全体が固唾を呑んで見守ったという構図です。
現時点で、このファンドがどれほど成功したのか、その評価をすることはできません。なぜならスタートアップに投資をするのは結果が出るまで平均10年ほどかかると言われており、数年でパフォーマンスを図るものではないからです。
ビジョン・ファンドが発足して以来、旧来のベンチャーキャピタルも大型ファンドを相次いでつくり、スタートアップへの大型投資を急加速しています。プライベートエクイティ投資業界が大きく変わるきっかけになったことは間違いないでしょう。
投資先企業が学び合う「群戦略」
ビジョン・ファンドは投資規模がとても大きく、なおかつAIというセグメントに特化しているという点でユニークです。
ビジョン・ファンドには「群戦略」という考えがあります。グループには、多数の起業家たちがいて、そ れぞれの事業分野でトップの座にあります。そこではAIの活用に投資先を特化しているため、起業家同士が刺激しあえる機会がよりたくさんあるというのです。
2019年にパサデナ (カリフォルニア州)で、投資先のスタートアップ創業者たち100人以上が集まった会合がありました。お互いにスピーチをやったり、個別にコーヒーを飲みつつあちこちでミーティングをしていました。みんな目がキラキラして、話題が止まらないという光景が広がっていたようです。
彼らに共通しているのは、ほとんどビジョン・ファンドが筆頭株主であること。そしてソフトバンクグループは、お互いに学び合えるような場をつくっており、まさに「群戦略」による刺激の場となっていると思います。
GAFAであっても「盛者必衰」の世界
ビジョン・ファンドが投資しているポートフォリオ企業は、200社以上に上ります。これが何年か先になると、400社、1000社と広がっていくはずです。これはAIを活用しているユニコーンの群れという、特異な存在になるでしょう。
なぜなら企業形態のあり方において、従来のような「一つの企業ブランド」「一つのビジネスモデル」「一つのテクノロジー」というものを30年単位で振り返ってみると、世界の時価総額トップ100位に入っている企業はガラッと入れ替わっているからです。GAFAのような巨大企業であっても、入れ替わりは避けられないと思います。
30年以上も経って、世界のトップ10位を維持できる会社というのはなかなかいない。つまり企業という存在は、創業者たちが歳をとって、テクノロジーが古くなって、ビジネスモデルも古くなっていくものなのです。
投資手法の秘密
1件あたり100億円から1,000億円単位という前代未聞のサイズの投資を、伸び盛りのAI スタートアップに、世界中で投資してまわる。そんなビジョン・ファンドでは、ちょっとした工夫をしています。
より安全にリターンがほしい人と、大きなリターンがほしい人が、それぞれ異なる形で共同出資できるようになっているのです。
安全にリターンをもらいたい人たちは、このファンドに対して融資をする。これによって、年利7%のリターンをファンドからもらうことができます。
一方で成功時に大きなリターンをもらいたい人たちは、このファンドの株式に出資することになります。 つまりリスクは高くても、投資が大きく成功した際のリターンに上限がないことになります。
こうして出来上がった1号ファンドの資金は約1000億ドル(約1兆円)でしたが、450億ドルは融資として集まったもの、一方残りの550億ドルは株式で集めたお金です。
プライベートエクイティの世界をガラリと変えた
ビジョン・ ファンドが10兆円を集めた後、スタートアップ投資という「プライベートエクイティの世界」は大きく変わりました。
シリコンバレーの名門VCのセコイアは、約6000億円の大型ファンドを立ち上げました。またタイガー・グローバルは、1兆円に迫るファンドをつくりました。
プライベートエクイティ投資は、もはや小さな規模の投資ではなくなりました。
「三つの教訓」
これまで、ビジョン・ファンドは3000社以上のスタートアップを見てきました。もちろん失敗も多くあります。
彼らが失敗を通じて学んだことの一つ目は、集中投資によるリスクの回避です。ある特定の企業に集中投資をすると問題になります。2号ファンドについては、1号ファンドよりはるかに投資先を分散させるようにしています。おそらく1件あたりの平均投資額は、300〜400億円ほどに下がっていると言われています。
二つ目の学びは、投資先のガバナンスです。創業者に、あまりにも多くの裁量権を与えすぎないことです。創業者を信じられなければ、スタートアップ投資はできませんが、それで も彼らに責任を求めることは大切です。M&Aや株式上場などについて、すべて創業者が圧倒的なパワーで決定するようではいけません。
三つ目の学びは、もし投資先のスタートアップが、数年という時間軸でうまくいかないことがあれば、潔く手を引く決断をするということ。テクノロジーの業界は動きが速くて、ひとたび 下降曲線に入ってしまうと、立て直すことはとても難しいと言われているからです。
個人投資家にも参考になるソフトバンク・ビジョン・ファンド
ソフトバンクグループはもはや投資会社であるとまで言われています。その理由が今回ご紹介したビジョン・ファンドの規模の大きさから言われていることです。その投資先の業績や評価額により、グループ全体の決算にも大きく影響を与えています。
とんでもない規模で投資をし続けているビジョン・ファンドですが、我々個人投資家にも共通する学びもあると思います。ファンドの中身は未上場株やスタートアップへの投資がほとんどなので、公表されている内容もごくわずかしかありません。
個人投資家がプライベートエクイティ投資をする上で参考になる考え方や投資先もかなり多くあると思います。
この記事を読んで少しでもプライベートエクイティ投資に興味を持っていただけたら幸いです。