
一任勘定運用
海外のプライベートバンクでは、投資家がポートフォリオの構築から投資先の運用までをファンドマネージャーに一任することが多いです。
こうした運用の仕方は「ディスクレショナリー・ポートフォリオ運用」と呼ばれており、日本語では「一任勘定運用」と訳されています。
投資家は担当者にオーダーメイドの注文を行い、プライベートバンクは「プロならでは」のポートフォリオを作成し、いかに適切な資産運用を行うかが重要となっています。
「オーダーメイド」といっても、プライベートバンクごとにベースとするモデルは持っており、あまりリスクを取りたくない人向けの「保守的運用モデル」のほか、積極的にリスクを取りハイリターンを狙いに行く「積極的運用モデル」、そしてその中間に位置し、リスクとリターンのバランスが最も取れている「バランス運用モデル」の3タイプが主であり、それを細分化したモデルを提供しているケースもあります。
日本の個人投資家向け一任勘定
ここまで読むと、投資家の方はどこかで聞いたことある仕組みだと感じていると思います。
ここ10年ほどですが、日本においてはそういったプライベートバンクのモデルを活用した一任勘定運用が増えています。
証券会社や銀行が提供する「ファンドラップ」や「ロボアド」、「AI運用」がこれに当たります。プライベートバンクの運用と、日本のそれらの運用では、投資家ごとに適切なポートフォリオを作成し運用・リバランスをお任せするという意味では同じです。
海外と日本の一任勘定運用の違い
しかし、運用の実情は全くと言っていいほど異なります。
大きな違いは以下の3点です。
- 投資先がファンドか個別の金融商品か
- グループ分けしただけか投資家ごとのオーダーメイドか
- 手数料体系
①投資先がファンドか個別の金融商品か
ポートフォリオを作成し、資産配分・リバランスを一任運用するだけでも日本のファンドラップやロボアドは魅力的だとは思います。
しかし、その投資先は投資信託です。金融機関によってどういった投資信託を選定するかは違いがありますが、アクティブファンドかインデックスファンドかのどちらかです。
海外のプライベートバンクの場合、その投資先は直接個別の金融商品を購入することになります。投資先の銘柄の選定もプライベートバンクが行います。その過程においても投資家ごとのリスク許容度や目的などに応じてオーダーメイドで組み入れる形になります。
投資先が投資信託であればより分散が効きますが、その先の個別商品までは選ぶことができません。結局、市場平均並には成果が期待できるもののそれ以上はあまり期待できないということになります。
逆に投資先が個別商品の場合、個別銘柄の変動に左右されやすくなってしまう、ということもあり得ます。
②グループ分けしただけか投資家ごとのオーダーメイドか
海外のプライベートバンクの運用は、既に述べた通り一定のモデルはあるものの、基本的には投資家ごとのオーダーメイドで行います。資産配分だけでなく投資先の個別商品の選定、リバランスの頻度、ライフスタイルの変化に応じたモデルの変更など、より細やかな対応になっています。
日本のファンドラップやロボアドの場合、投資家ごとのオーダーメイドと謳っているものの、実際はいくつかのグループに投資家を分け、そのグループごとに全く同じ運用を行う形です。
③手数料体系
手数料(運用報酬)については、日本・海外どちらも「資産残高に応じた報酬」となっています。
海外プライベートバンクの場合、顧客や業者ごとに大きく違うものの、年間0.5~2%程度です。その対価として、ポートフォリオ構築・投資先選定・リバランス・管理までほぼオーダーメイドで担当者が行う形です。
日本の場合、海外に比べ割高になっていることが多いです。例えば、大手金融機関などが提供する「ファンドラップ」の場合、手数料で年間2~3%かかります。さらに投資先がアクティブファンドだった場合、その投資信託の報酬が1~2%程度かかっています。合計すると3~5%ほど手数料がかかっている場合が多く、これはかなり割高です。
「ロボアド」の場合はだいたい1%程度で、投資先もコストの安いインデックスファンドですので、海外と比べても遜色ありません。しかし、ロボアドの場合はモデル数が少なかったり投資先の入れ替えなどは基本的に行わないなど、オーダーメイドとは言えません。
インデックスファンドでポートフォリオを構築するだけで手数料が1%も取られるなら、自分でポートフォリオを組んだ方がマシと考えてしまいます。ポートフォリオ構築の方法についてはこちら。
日本の法整備による課題
さらに、海外のプライベートバンクは保有している国債などを担保にレバレッジを利かしてこのような一任勘定を行うことも可能です。アメリカでは、独立系のファイナンシャルアドバイザー(RIA)が顧客ごとに資産を預かり一任運用を行うことも主流となっています。
日本では金商法の壁があり、プライベートバンクが行うレバレッジ運用やファイナンシャルアドバイザー単位での一任勘定運用は認められていません。手数料も基本的には売買手数料がメインとなっており、海外の金融機関は日本の個人投資家向けビジネスに参入しづらくなっており、過去も多くの金融機関が参入したものの、その壁により撤退しているケースが多いです。
今後の法整備によっては日本の金融業界、個人の資産運用を大きく変える可能性もありますが、少し先になりそうです。