
債券投資の中で、ここ数年問い合わせが増えている債券の一つが、CoCo債(Contingent Convertible Bonds、偶発転換社債)です。
欧州の金融機関が主に発行している比較的新しいタイプであるCoCo債について、その投資と留意すべきポイントについてまとめました。
CoCo債とは
CoCo債とは、発行体である金融機関の自己資本比率があらかじめ定められた水準を下回った場合などにおいて、元本の一部または全部が削減される、または、強制的に株式に転換されるなどの仕組み(トリガー条項と呼びます)を有する証券です。
このような特性から、CoCo債は、同一発行体の普通社債や劣後債などと比べて利回り水準が高い傾向にあります。また、CoCo債は比較的新しい資産であり、社債などと比べて市場での認知が進んでいないとみられ、CoCo債の利回り水準は同格付の社債に比べ高くなる傾向にあります。
CoCo債は機関投資家や金融機関向けの流通が主であり、一般的に投資案件は開示されておりません。債券の中でも魅力的な商品ですが、個人投資家がそのような債券を購入するためには証券会社やIFA経由でディーラーから仕入れてもらうしかありません。
CoCo債はなぜ高利回りか
CoCo債は主に欧州の大手金融機関が発行します。一般企業と異なり、金融機関は実質的に規制当局の判断により破たんが決まります。その基準となるのが金融機関の自己資本規制であり、金融機関は自身の自己資本比率を、求められる一定の基準以上を維持する必要があります。
自己資本比率を引き上げるために発行されるのがこのような資本性証券です。中でも、CoCo債は、発行する側が「安定した発行を続けたいという意思」が強く、資本として認められるための条件は付与されていますが、ファーストコール(初回早期償還)までの社債として、高いクーポンを享受できる可能性が高い資産と言えます。
投資におけるポイント
投資家にとって重要なポイントは、①トリガー発動、②クーポンスキップ、そして、③コール時期、になります。
①実質的な元本割れ?
発行体の自己資本比率がトリガーに抵触すると、元本の一部または全部の削減、または強制的な普通株式への転換が発生します。ただ、このトリガー水準は、特に大手銀行にとっては、すでに破たんに近い水準と言ってよく、規制当局との連携の下、増資による資本増強が実行される可能性が高いと言えます。
最近のクレディスイスの事例などを見ると、巨額の損失が発生した場合でも、過去の内部留保の蓄積があるほか、一過性と市場が評価し増資が可能となっていることを考えると、巨額の損失発生があっても必ずしもトリガー発動に結びつく訳ではないと考えられます。
②金利が出ない可能性
CoCo債の最大のリスクはクーポンスキップです。仮に増資に成功して自己資本比率が改善しても、巨額の赤字を計上して普通株式の配当を取りやめるような場合、発行体の判断で、クーポンの支払いをスキップする可能性があります。CoCo債のクーポンは非累積と定められているので、一度支払われないと将来支払われることはありません。
但し、クーポンが支払われないとCoCo債の格付けはデフォルト状態となり、将来の借り換え調達に悪影響を及ぼします。発行体にとってクーポンの支払いを継続する意思は強く、資産売却などの財務リストラによる普通株配当原資ねん出と、その結果としてのCoCo債クーポン支払いの可能性はあります。
③償還が変わる?
CoCo債や劣後債の場合、満期日より前に早期償還日というものが設定されています。これは、ファーストコールと呼ばれこの日に早期償還されることが多く、満期まで保有するのではなく、投資家はファーストコールでのコールを前提とした投資を行っています。
発行体も将来の安定調達を考慮して再調達コストにかかわらずこの早期償還日にコールを実施する可能性はあります。しかし、必ずこの日に早期償還するというものではないので注意が必要です。
低金利下での債券投資の選択肢の1つ
このように、通常の社債と違い利回りが高く、リスクもあるCoCo債ですが、ポートフォリオの中で保有しておくという選択肢も良いことです。年金基金などの機関投資家や富裕層はこのタイプの債券へ投資していることが多いです。
しかし個人投資家向けに流通しているCoCo債は少なく、10万ドルや20万ドルからしか買えない銘柄も多いです。債券投資とはいえリスクもあるのでしっかりとした銘柄を選びましょう。