
エンダウメント投資とは、米国の大学などが実践している「寄付金で集められた資産を運用する投資」のことです。
エンダウメント投資には資産配分や投資手法など、かなり独特であり、それゆえ投資パフォーマンスも非常に高くなっています。
「エンダウメント」とは
「エンダウメント」(Endowment)という言葉は、もともと英語で「寄付する、寄贈する」といった意味で、資産運用の世界ではそれが転じて米国の名門大学の基金のことをを指すようになりました。
寄付金なので返済義務はありませんが、エンダウメントはその寄付金を半永久的に運用し、その運用益で大学の収入を賄う義務があります。
特に、大きなエンダウメントであるハーバード大学やエール大学などは、その運用資産が数兆円にもなり、毎年の寄付金も数億円以上の規模になります。こうした大規模な大学には投資オフィスがあり、運用目標、運用資産や運用者の選定を行っています。
全米の大学には約800のエンダウメントがあり、全体での運用資産規模は50~60兆円と言われています。エンダウメントは投資主体として米国のみならずグローバルに注目されています。
現在最大のエンダウメントはハーバード大学であり、テキサス大学、エール大学と続きます。これらの大学では支出の3割程度をエンダウメントからの運用益に依存しています。
エンダウメント投資の特徴
エンダウメントの資産運用の特徴は、36年にわたりエール大学基金を率いたデビット・スウェンセン氏の著書(邦訳「イエール大学流投資戦略」)にまとめられています。
- 長期的な投資家として株式を資産運用の中心に据える
- マーケットタイミングを取らず機械的なリバランスを行う
- 株式からのリスク分散効果を期待して、不動産・未公開株・ヘッジファンド・インフラなどのオルタナティブ資産に積極的に投資する
- オルタナティブ資産投資では、優れたマネージャー(ファンド)の選択に力を注ぎ、より高いリターンをあげる
といったことがエンダウメント運用の特徴です。最近のポートフォリオは、プライベートエクイティやヘッジファンドなどのオルタナティブ資産が非常に多くなっています。
ハーバード大学の資産配分と運用戦略
最大のエンダウメントであるハーバード大学の運用について具体的に見ていきましょう。ハーバード大学の運用は、毎年大きなリターンをあげています。2021年6月末時点での資産配分は、下記の図の通り、プライベートエクイティ(34%)とヘッジファンド(33%)のオルタナティブ投資で約7割を占めます。


ハーバード大学の最近のポートフォリオ戦略(FY21 HMC Annual Reportより)
- コモディティへの投資比率の低減
- 不動産エクスポージャーを削減
- プライベート・エクイティ、特にグロースとベンチャーへのエクスポージャーの増加
- 上場株式のエクスポージャーを削減する
- ヘッジファンドを増やす、特に株式と相関性の低いファンドを増やす。
これは、株式や債券のリターンが低下していることと、ポートフォリオの市場との連動性を限りなく下げ、長期的な運用パフォーマンスを向上するためです。
個人投資家がエンダウメント投資を再現する
エンダウメントは、運用規模が巨額で、投資のプロが運用を行っていることなど、個人投資家とは異なる存在に思えます。
しかし、運用資金の性格を考えると、他人の資産を預かっているわけでも借金でもなく、自己資金を長期で運用できます。その意味では、エンダウメントと個人投資家はよく似ていると言えます。これは、銀行や保険会社、年金などの機関投資家にはない、個人投資家の強力な武器です。
武器は積極的に活用しましょう。投資の武器で最も重要なことは、時間を味方につけるということです。しかし、ポートフォリオの分散をしておかないと、大幅に相場が変動したときにもろに影響を受けてしまいます。それでは長期投資に向きません。
個人投資家は、エンダウメントを手本に投資戦略を再現することで、積極的な長期分散投資という、金融機関や年金などの投資家ができないような資産運用をすることができます。
また、プライベート・エクイティやヘッジファンドなどのオルタナティブ資産投資を活用するには、資産・タイミングの適切な分散、に加えて、マネージャーの選別、運用コストや仕組みについての工夫など、のポイントが重要になっています。